LOG IN

『猫屋』 片岡茉莉亜

by 半空文学賞

『猫屋』 片岡茉莉亜

寒い寒い冬の日だった。ことでん高田駅に私は到着した。たくさんの荷物を担いで。冬はお日様もお寝坊さんなのか、なかなか顔を出してくれない。おかげでもう六時がくるというのに辺りはまだまだ、薄暗い。駅舎の燕の巣がまだ壊されずにずっとそこにあることに心をあたためながら、切符を買ってホームのベンチに腰掛けた。ふと気配を感じて左を見ると、小さな男の子が座っていた。二匹の小さな三毛猫を抱いて。すっかりびっくりしてしまって、「おおおおおはよう。ございます。」と、明らかに動揺した挨拶をした。「なななな、何をしてるの? おおお、い、家の人は?」と聞くと、「ねこや。ぼくはねこやだよ。さむそうな人にねこをかしてあたたまってもらうのがぼくのしごとってわけ。ほら。」そう言って、指差した先には鉛筆で「ねこかします。むりょうです。あたたかいです。」と書かれた折り紙がうっすいセロハンテープで貼られていた。後から考えると、家の人についての質問は完全にスルーされているがなぜかそのときは全く気にならなかった。「か、貸してください。」気付くとそう言っていた。「はい、まいど。どちらがいいですか? こっちがしずかで・・・こっちがおとなしいですよ。」と一生懸命話しかけてくる男の子にメロメロで「毎度って、初めてだよ! 静かと大人しいってほぼ一緒ジャン!」と突っ込みを入れることなくふにゃふにゃの顔で「大人しいほうでっ。」と答えていた。男の子から受け取った猫を膝に乗せると生き物の体温がじわじわと身体全体をあたためていく。気が付くと私は泣いていた。雫がぽとんぽとんと猫の後頭部に降り注ぐ。猫は怒ったように目を細めていた。「どうしてないてるの? しずかなねこのほうがよかったかな・・・ほら。とりかえっこ、する、し、しますよ?」男の子に持たれてぶらんこのように揺れている猫を男の子の胸に返して口を開いた。「大好きだった人とお別れしたのよ。」男の子は「こいびとっていうひと? しんじゃったの?」と聞いてきた。「死んでないよ。今はまだ家で寝てる。死ななくてもお別れすることもあるのよ。」間髪いれず、「もう、だいすきじゃなくなったの?きらいになっちゃった?」と、なんだか泣きそうな顔で迫ってきた。男の子を傷つけないように考えて、考えて出た言葉が「大好きな人から、もっと好きでいたかった人になっちゃっただけなの。」だった。二十一歳まで際まで恋愛とは無縁の人生を歩んできて、初めてできた恋人だった。花園駅の近くに住んでいる私はことでんに乗って高田駅まで通った。大好きな人に会うために。電車の中で好きな人に会うための心の準備をしながら揺れる時間が好きで、「車で迎えに行くよ?」と言ってくれる彼を「悪いから。」と何度もごまかした。初めは手を繋ぐのも精一杯、遊びに行くとなったら近くのショッピングモールというような中学生のような恋愛だったのに、京都へ旅行するまでになった。ぎゅっとするとあたたかい人だった。そういえば、彼も猫が大好きだった。五千四百円もする三毛猫のぬいぐるみを買ってきて呆れたことが懐かしい。「おねえさん!」想いにふけっているわたしを男の子が呼んだ。「また、すきになれたらいいね。」と男の子が微笑んだ。もう辺りは明るくなっていた。そろそろ高松築港行きの電車が来る。「あたたまった?」そう聞く男の子に「あたたまった。ほんとうにありがとう。お代はいくらですか?」とわざとらしく聞くと、「むりょうですってかいてあるでしょ。あ、でもそのおいしそうなやつ、もらってあげてもいいよ。」と言ってわたしのポケットから顔を出していたラムネを指差した。そのラムネを渡すと男の子は、わたしをぎゅっとして駆けていった。ガタンゴトンと電車が近付いてくる。そういえば、彼もこのラムネがすきだった。

OTHER SNAPS