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『乗車三十三分の懐郷』 きむら

by 半空文学賞

『乗車三十三分の懐郷』 きむら

 あまり防寒の役目を果たしていないマフラーに顔を埋めた。皮膚も布も冷えている。

「そのマフラー、意味ある?」

隣で友人が笑う。気持ちが違うのだと答えて、暖かな箱の中に踏み入った。

がたん、ごとん。音を付けるなら、きっとそんな風。心地良い音と、ゆるやかな振動。揺られて、いつの間にか彼女は眠っている。掌から携帯電話がこぼれ落ちそうだ。それに注意しながら向かい側の窓の外を眺めた。

 もう三年目の景色。珍しさなんて感じることもないけれど、それで良かった。真っ青な海に反射する朝日が少し眩しくて、けれど目を逸らす暇もなく木々が追って、そのうちに街がちらほら。ただぼんやりと眺め続けた。

「そろそろ着くよ」

 声をかければ、ゆっくりと瞼が開き、瞳が覗く。携帯電話は彼女の手の中。この温かな日常を懐かしむのは、そう遠くない未来。

 私達は寒々しい外に降り立ち、歩き出す。

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