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『おわりのひとつ手前で』 まやの

by 半空文学賞

『おわりのひとつ手前で』 まやの

 榎井駅には、かつてふたつのホームがあった。いまでは、草の生い茂った中に廃ホームのあとがさみしく残るだけ。

 この駅じたいが、あと何年持つだろう・・・・・・?

「あいかわらずだね」

 あなたが、ホームにつづく階段をあがりながら言う。あいかわらずって、なにが?わたしはその疑問を口には出さず、ただ小さくうなずいた。だってそれは――――――もしかしたら。自分のことかもしれないから。

 榎井駅の構内に入る。久しぶりにふれる券売機は、挨拶もなく無機質に、わたしの前に紙切れを落とした。生気がない。この駅も、まわりの風景も、なにより、今のわたしも。

「さびれてるってことだよね」

 ようやく思いついた答えを、わたしはあなたにぶつけた。あいかわらずって、この駅のことだと、湿気た座布団の上に腰を下ろして、やっとわかったのだ。わたしたちの目の前には廃ホームのあと。ぼろぼろになった緑色の空間が、水蒸気の中にかすんでいる。さっきやんだの雨のにおいが、まだあたりにたちこめている。わたしたちのほかには、誰も構内にいなかった。

 そう。こういう景色だ。

 ずっと変わらない。ずっと前からこの駅は、さみしい。少なくとも、わたしがこの駅を使うようになってからは、ずっと。

「いつまであるのかな・・・・・・」

 わたしは勝手にしゃべっていた。あなたがどういう表情をしたのかは、見えない。ひょっとしたら怒られるかもしれない。あなたにとっては地元の話だ。

 でも、ひと気もない、整地もまばらな、こわれてしまいそうな、この駅にいると、たまらなく、ものすごくさみしくなる。変わっていく街の中で、ここだけ時が止まってしまったようにわたしを迎え入れ、そして突き放す。ずっと同じように。

 こんな駅、あなたがいなければ知ることもなかったのだ。あなたがいなければ、くり返しここに来ることもなかった。

 頭上の電灯が、もうすぐ来る電車の存在を知らせる。

 次はもう会えないかもしれない。

 そういう予感があっても、あなたに何も言えない。変わらないこの駅の空気が、わたしの喉をふさぐのだ。

 失われた片側のホームのように、消えてしまうことだってなんら不思議ではない。この駅も―――――そしてわたしたちも。

「そうだね」

 あなたが口を開く。

「でもそういうところが、けっこう好きだよ」

 電車のあかりが近づいてくる。わたしだって、この駅が嫌いなわけじゃない。消えてほしいわけでもない。むしろあなたと同じ。好きだから、なくなってほしくないのだ。だからこそ、おわりの予感がおそろしくて、変わらないものに期待をゆだねてしまう。

「おわりのひとつ手前でしょ?」

 あなたはそう言いながら、立ち上がる。

「なにが?」

「ほら、終着駅のひとつ前の駅だから」

「・・・・・・のぼり線から数えたら、はじまりのすぐ後だよ?」

「あはは。そうそう。だから、おわらないんじゃない?」

「でも、おわりかけじゃん。それって」

 どうしていつも主語がないの。わたしにもあなたにも。ほかのものに存在をゆだねて、決定を放棄している。でも・・・・・・。

「今日はありがとう。また来てね」

「うん」

 閉まるドアのむこうに向けて、わたしは声に出さず祈った。

 わたしも好き。

 だから、ずっと残っていて。

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